『どこで演奏されようとジャズはジャズに違いないんだけど、ウエスト(ウエストコースト=西海岸)の連中はスイングの仕方が違うんだ。ジャズをクラシック音楽と結びつけたり、室内楽のように演奏したりね。僕の求めているものとは違う。だからイースト・コーストに戻ってきた』とソニー・クラークが言ってます。
老婆心ながらジャズでウエスト・コーストといった場合、ロックでカリフォルニアを言うこともあるので混同しないようにしましょう。ミュージカルの『ウエストサイド物語』は不良同士を扱った西と東の争いでした。
1957年6月23日のハンク・モブレーのレコーディングに参加してから、ソニー・クラークはブルーノートの専属ピアニストになって多くのレコーディングに参加しています。それなのにソニー・クラーク自身のアルバムは何枚と数える程度。ジャズのレコードは1日のセッションで録音してしまうことが常で、演奏に加わるメンバーは豪華。飛び入り参加のような録音もあったりします。
誰の名前でレコード発売をするのかは、前もって決まってはいるようですけれどもネームバリュー次第になってしまうのでしょうね。
その誰のレコードとして発売されるかというのを、リーダー・アルバムと言います。
ソニー・クラークの場合は、録音に参加は多い(4年間の間に40の録音に参加しています)けれどもリーダー・アルバムは少ないと言うことです。
クルト・ワイルの名曲「スピーク・ロウ」はジャズのアーティストが好んで録音しています。1943年のミュージカル『ヴィーナスの接吻』の挿入歌だった歌の曲です。多くの録音の中でもソニー・クラークの録音は興味深い。
1957年9月にニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオで録音されたソニー・クラークのリーダー・アルバム第2作となった『Sonny's Crib」は、ソニー・クラークのピアノ、ポール・チェンバースのベース、アート・テイラーのドラムスというベーシックなピアノトリオのリズム隊にドナルド・バードのトランペット、カーティス・フラーのトロンボーン、ジョン・コルトレーンのテナーサックスというフロントが三管編成。ソニー・クラークではないミュージシャンのレコードとして出ていたとしても不思議ではないですね。
『前から、コルトレーンのことは高く評価していたんだけど、これまで一緒に演奏するチャンスはなかった。きっとうまくいくはずだと思った。」 - ソニー・クラーク。
しかしこの『スピーク・ロウ』。そのコルトレーンが先導していますが、ソロの途中で音が途切れてしまっています。どこまで演奏していたのか進行が分からなくなったのでしょうか?演奏を再開して最後まで録音されてはいますけれども何故か録り直しにならないままレコードになっているわけです。『のりがいい』のでOKテイクになったのでしょうか。
多くの相手と繰り返し一緒にセッションに加わっているソニー・クラークですけど、コルトレーンと録音をしたのはこの1日限りです。
“チャンス”を喜んでいるのに、どういったものだろう。コルトレーンからの相性が良くなかったのでしょうかね。レコードになった音だけでは分からないけれども、ふしぎとその音の途切れた瞬間があるからこそ何度も聞き返してみたくなる魅力があるのだと思いませんか。
Sonny Clark - Sonny's Crib (Blue Note BLP 1576) Donald Byrd (tp) Curtis Fuller (tb) John Coltrane (ts) Sonny Clark (p) Paul Chambers (b) Art Taylor (d) Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ, September 1, 1957
tk.2 News For Lulu
tk.3 Sonny's Crib
tk.7/6 Speak Low
tk.10/9 With A Song In My Heart
tk.12 Come Rain Or Come Shine
** also issued on Blue Note BST 81576, CDP 7 46819-2.
発売されてから50年経っているこのレコード。コレクターがコレクションしていたものが多くて扱いも丁寧なクラシックのオリジナルレコードと違って、買って暫くバリバリ聴いたら処分されてしまうことの多かったジャズのレコード。ラジオではなくて携帯用のレコードプレーヤーと一緒に、ピクニックに持ち出されて聴かれたりダンスパーティで聴かれていたのですから多少の傷は当たり前、多少のチリチリ音も聴くことができることが奇跡と言えるものです。
発売枚数も少なかったソニー・クラークのレコードは、状態の良いものは「47West63Streetラベル」だと20万円と言われるのは納得できる音。
正し写真のレコードは、両面とも「47West63Streetラベル」ではなくB面のラベルが違うと言うことで5万円だった珍盤です。[ JUGEMテーマ:
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ブルーノートは独特の音で、昔はあまり好きではなかったけれど、今聞いてみるとなかなか味わい深いものがあります。
コレクションを引っ張り出して聴いてみようかなぁ・・・。
ジャズの録音はノリが良ければ、少々歪んでいようと音が割れていようと、それも味として楽しめるというのは大人の音楽だなぁとつくづく思います =^_^=